誘導都市-1 ID-I 1994
「誘導都市」の最初の試行版:

太陽神の都市-1

住宅には太陽の光が必要だ、というのは、日本では不可侵の条件らしい。
それはもはや、「都市神話」であるといっていい。
その証拠に、都市のマンションは南向きから売れていく。
もちろん、日当たりなんていらない、という施主は当然いる。しかし、不特定多数を対象にした「都市住宅」にとって日照は欠かすことのできない条件ということになっている。

さて、すべての住戸に一定時間以上の陽を当てるという、このシンプルな条件をクリアするために、普通採用されているのは「隣棟間隔」という方法である。
日が当たるだけの間をあけて、板か塔のような「住棟」を配置する。

では、本当に、これが最適解なのだろうか。
住戸はみんな同じ箱になって並ぶ、この方法が。
そんな疑問が、このプログラムの出発点である。

まず、敷地いっぱいに立ち上がる立体を考える。
その奥の方の、一軒の住戸に日の光を届けるには、その立体に穴をあければいい。

これを、すべての住戸について行なう。
するとそこには、たくさんの穴のあいた大きな箱、多孔質超立体が出現する。

その中のすべての住戸には条件どおりの日照が保障されている。
これは、板や塔を並べた今までの解答と日照条件では同じパフォーマンスである。

しかし、今までの解である板や塔にはない特性が、ここにはある。

それは例えば、うちと隣は同じではない、という多様性であり、あるいはたくさんの半戸外公共空間の発生である。
アクセスやプライバシーや、その他の条件も、同様な考え方で組み込んでいくことができよう。
ユニットのかたちを変えることはもっと容易だ。

このプログラムが告げていることは、こうした個別の例を越えて、いま普通に使われている「方法」は、けして唯一の最適解ではない、という一般「事実」なのだ。

自己/他者決定の都市

「都市は関係性の中にある」というテーゼを、最も純化した形式で表現するプログラム。「わたしのことはあなたが、あなたのことはわたしが決める」、という相互性で動いていく「あなた」と「わたし」の行く末がどうなるのかをシミュレートする。

左上の円が世界であり、その中の多角形がわたし、下の多角形があなたで、辺の比や角度等で自己が定義される。
その相互比較値に係数がかけられて、右側の次の「わたし」と「あなた」が決まっていく。これを何百回と繰り返し、その状態でまた初期設定を変えてみる。
これは自分の「性格」と他者との「差異」を定義した上で、「他者との関係で自分が決まる」という一般状態の思考シミュレーションであり、模擬的な進化過程の提示とも言える。
都市の建築はひとりでは生きられない。人間だって同じこと?

比較街区の都市

都市は不自由である。
都市に自由を縛るたくさんの規制があることは、誰しも日頃、痛いほど感じていることだろう。
しかし、その規制の結果のはずの都市は、無秩序と混乱の見本のように言われる。
これはどうしたことだろうか。なにかがおかしい。
そんな疑問からこのプログラムは始まった。

既存の規制が秩序を生まないのは、たくさんの規制の全体の作用を誰も考えていないからだ。誰かがそれをやらねばならぬ。
これは複合する規制の相乗効果の検証を行なうプログラムである。

街区単位の都市に、相互に関係し合うコードをかけてその結果を見る。設定を変えてこれを繰り返す。単純なコードも、相互に関係し合うことで予測できない結果を生む。
しかし、予測できない結果もシミュレーションからある程度「読む」ことができる。
読み、があれば、誘導、も可能になる。最小限のコードで最大効果を。
(ところで、効果、とは何でしょう?)
無駄な規制をなくすこと。もっと自由な都市へ向うための、ミニマムコード。
これは実は、規制緩和のためのプログラムなのだ。

歪曲空間の都市

ひとは集まり、また散っていく。
都市とは、その集合離散の繰り返しでもある。
人に限らず、物流もエネルギーも情報も、密度の違いが都市を定義する。この、「集まり、散っていく」という点に着目したプログラム。

世界に定点と移動点とを設定し、移動点は定点に引き寄せられ、また戻る、という行為を繰り返す。その課程を場の三次元の歪みとして表すもの。 
実際の計画では、例えば、施設を配置する場合、アクセスやサービスの時間帯、利用者層の違い、といった条件下で、「最大効果配置」を発見するツールとして使える可能性がある。 
都市の中にいくつかの施設を配置する場合、徒歩や交通機関といったアクセスの違い、サービスの時間帯や利用者層の違い、というような条件のもとで、もっとも有効な配置を見いだすというような応用が考えられる。

相関波動の都市

ひとはひとりでも、存在するだけで他の人に影響を与える。都市の中の建築も同じである。その作用の伝播の様相を、空間の変化に変えて視覚化しようとするプログラム。

チューブ状の世界の外側を普通の実世界、内側をメディアの世界として、建築の影響力を山の高さまたは谷の深さで表し、作用を力線で示す。
ここに、例えば影響力のある建築をひとつ放りこんだ場合、その影響がどのように伝わるかを、波のうねりとして描きだす。
ここで用いた、「影響」を場の「運動」に変えて示す、という方法は一般的な利用が可能であろう。

瞬間実体化の都市

ひとりだけではまだ形をなさない「存在」が、誰かと出会うことによって「実体」となる、という仕組みをシミュレートするプログラム。

例えば、面積と体積とが出会うと三次元の立体が定義されるし、高さと体積とが出会うと面積が決まる。
まだ形にならない「概念のこどもたち」が床の上を勝手に走り回り、時に衝突してそこにかたちが生まれる。
そんな床が何枚もレイヤとして重ね合わされ、それぞれのレイヤで生まれた実体がさらに重なって、より高次の存在となる。

そこは言わば概念子の運動場またはディスコのようなもの。
なにごとも出会いから生まれる?