誘導都市の研究は、いくつかの大学とオフィスのメンバーが入れ替わりながら継続している。
これは大学の正規のカリキュラムとは別の、バーチュアルで柔らかい研究体の活動だ。
10年前の開始時点ではまず、そもそもこうした試みが可能かどうかを確かめようとした。
その結果、どうもできそうだということになり、都市全体をひととおり組みたててみた。これが第一期である。
そして現在の第二期では研究を超えて、その一部を実行に移した。
始めた頃はこうした研究は見当たらなかったが、近年は学会論文等にも関係する意図を持った研究が見受けられるのは喜ばしい。
ただ、誘導都市の特徴は、研究に留まらず、実際に使える設計の方法を開発しようとしている点にある。
誘導都市の第一期では、単体建築よりも都市や街区の設計方法を開発することを目指していた。
そこでは都市の設計要素をいくつかに分け、それぞれを解く「要素プログラム」を開発した。
たとえば「いい」街路と、「無理のない」起伏。
「快適な」風に、「ふさわしい」配置。そして「適当な」機能配分。
それらをかなえる個別のプログラムをつくり、結果を重ねあわせて全体を構成する。
もちろん、都市設計に必要な要素はこれだけではないが、要素プログラムはあとから組み替え可能だ。
付けたりはずしたりが容易なこと、閉じていない柔軟性が、誘導都市の特徴である。
誘導都市の基本的な構造は、おおむね次のようになっている。
(これとは違うタイプのものもあるが)
1-「価値基準」
2-「評価プログラム」
3-「発生プログラム」
4-「接続」
5-「生成」
要するに、いろいろな案を自動的につくるプログラムを用意し-3、
他方に案を採点するプログラムを置く-2。
ふたつをつなげ、つくる端から採点させるようにして、家に帰ってしまう-4。
所要時間はコンピュータの能力次第。数日後に来てみると、膨大な案の中から高得点の案が見つかっている、というわけである。
その結果、高得点であったもの(正確には高得点の案を発生させたプログラム)を敷地に適用してプランを「生成」する-5。
さらに5の結果を組み合わせ、3に戻して以後繰り返し、とすると、遺伝的アルゴリズム等に近づく。(6-「フィードバック」)
誤解され易いのだが、この方法はコンピュータに無数の案をつくらせてその中からいいものを選ぶ、のではないことに注意してほしい。
誘導都市では「いい案」は自動的に「生まれる」のである。
では、何が「いい」案、なのか。
上記の項目1-「価値基準」とは、いったいどこにあるのだろう。
最初に開発した「太陽神の都市」では、価値を日照時間に置いた。これは分かりやすい。
どの住戸も一定時間以上の日照を受けること、という条件だけを条件に解いた結果、従来使われている「隣棟間隔方式」とは大きく違う、自由度の高い集合形式が得られた。
次の「発生街区の都市」では道をつくった。
そこでは「いい道」の定義を「目的地に早く着く」と「過程が楽しい」、こととした。
「早く着く」、は、交差点の数と交差道路の数から数式を立てた。
電気回路にたとえれば抵抗値を定義したようなものだ。
「楽しさ」、の方は、経路の変化の変化率、とした。
まっすぐな道はつまらないが、同じリズムでうねっていても単調だ、という理屈である。
それは回路を流れる電流の微分値のようなものだ。
道の楽しさはそんなことで決まらない、どんな店があるか、何しにいくかでも違うぞ、という声が聞こえてくるが、そのとおりである。
また、学生と老人とでは、いい道の基準は違うという意見も、もっともだ。自分自身でさえ、今日と明日では評価が違うかもしれない。
一律で絶対の価値設定など、できるものではない。
だから、価値基準は、その都度選択可能である、と考えている。
カセットのように、「価値SET」を時に応じて選んで、入れ替えればよい。
子供用、わたし用、あなた用の、価値カセット。
そのカセットを入れるデッキをつくろう、というのが、誘導都市である。
正確には、デッキというハードウエアではなく、デッキを成り立たせるアルゴリズムという、ソフトウエアをつくること。
誘導都市で確かめたかったのは、選んだ価値の当否ではない。
いったん価値を選んだら、その価値を満たす答えを、プログラムが紡ぎだせること、を実証しようとしたのである。 |