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:::::初めに/駅の「設計」とは: 地上の建築の設計では、「設計者」である建築家は、多くを決める立場にあります。 建物の配置、部屋のレイアウト、空間の大きさ、構造、空調や電気などの設備などについて、施主や利用者の意見を聞き、設計者が検討を重ね、最良と思われる案を選び出します。 そしてその案の建設費用を算定し、予算に合わせて修正を加え、施主から施工者に工事が発注されます。 しかし、地下鉄駅では、状況が違います。設計者の範囲は、駅の全体設計の、一部なのです。構造や設備も設計者の範囲外です。 これは、地下鉄駅は、土木(シビルエンジニアリング)工事の一部であることによります。 駅全体の配置や、出入り口の位置と広さ、それにエスカレータとエレベータの位置と台数などは、土木設計によりあらかじめ決められ、その範囲で建築設計をすることになります。 したがって、駅の使い勝手を含めて、設計者には提案できない部分が多いのです。 (飯田橋駅では、土木設計/工事との共同作業を試み、多くの方々の理解と、精力的な協力を得ることができましたが、まだ十分ではありませんでした。 今後は、設計者(=建築家)がさらに基本的な土木設計のレベルから参画することで、土木と共に設計を考え、よりよい解答が得られる可能性を探る道が、望ましいと思われます) こうした条件を前提として、その上で、できることは何なのか、それを考えることから、この駅の設計は始まりました。 1− 永い時間に残る駅を造ろうと、考えました。 駅は都市の大切なインフラです。いちどつくったら、長い間使われます。 世界の諸都市を見ても、ローマの終着駅、ニューヨークのセントラルステーション、パリのメトロ各駅など、駅はそれぞれのデザインを生かして、使う人、訪れる人々に大切な、メモリアルや出会いの舞台になっています。 駅とは、交通施設であるばかりでなく、都市の魅力を高める重要な文化資産とも言えます。 近年、国際的な「都市観光」の必要性が言われていますが、訪れる甲斐のある魅力的なスポットを数多く持つことが、これからの都市の、評価基準のひとつとも考えられます。 当座の浮き沈みする経済や風潮に左右されることなく、永い歴史の中で価値を発揮できるようにと、素材や構成や、空間を含めて、この駅を考えました。 2− 技術から気持ちへ、空間の豊かさとは何か、を考えました。 地下鉄の設計にはさまざまな基準や規制があります。 通路の広さやコンコースの大きさ、天井の高さなどにも、たくさんのきまりがあります。 そのきまりは、利用者に必要最低限の広さや高さを用意する、という観点から決められたようで、そこがどういう雰囲気なのかという視点は、不足していたように思います。 空間のゆとりや広がり、という見方は、希薄だったようです。 だから、機械室は高い天井なのに、ひとが使うコンコースは、最低限の低い天井だったりします。 機械室や倉庫などは技術的な計算から決めるのが妥当ですが、ひとが歩いたりたたずんだりする空間は、エンジニアリングだけでは決まりません。 たとえば高い天井を、ムダだと言ってしまうと、それ以上には進みません。いまのままです。もし、高い天井を気持ちがいいと思えば、それはムダではなく、ゆとり、になります。 こうした空間の豊かさは、費用を追加しなくても、くふうしだいであるていど得ることができます。 この駅では、定められた基本的な枠組みはあまり変えられませんが、その中で、そうした駅空間の豊かさを求めました。 3− 空間の広がりを、求めました。 その第一歩は、空間のひろがりです。 大江戸線は車両を小型化し、土木工事の空間もコンパクトにすることで工事費の軽減を図っています。そのコンパクトな土木工事の空間に、空調ダクトを通し、照明を加え、仕上げを張っていくと、さらに天井が低くなって圧迫感を感じることにもなりかねません。 そこで、構造体を調整し、空調の方式を再考し、配管の経路をくふうして、できるだけ広がりのある空間となるように勤めました。
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4− 快適で楽しい駅にしようとしました。 また、飯田橋駅は、地理的に直線状の構成なので、歩く距離が長くなります。 単調な通路を延々と歩くのは、おもしろくないし、疲れます。 そこで、コンコース、階段、通路、ホーム、それぞれの持って生まれた性格をはっきりさせて、めりはりのある空間としました。 階段には照明を兼ねたウエブフレームが植物のように配されて、地下構造体のチューブのような空間の性格を伝えると同時に、リズミカルな空間を構成しています。 プラットホームでは土木構造体を生かした高い曲面天井が空間に広がりを感じさせます。ベンチやファニチュアもくふうしました。 地上の換気塔は、優しく葉や羽をひろげたような構成で、地下空間との連続性を現しています。 こうした設計には、コンピュータプログラムで空間や形態を発生させる、新しい方法が用いられています。 5− わかりやすい駅に、しようとしました。 さらに、長い駅なので、階段がいくつもあります。 道をまちがえると、戻るのも一苦労です。 方向を示すサインはもちろん重要ですが、捜して近づいて読まないと、わかりません。 またサインをあまり増やしては空間がうるさくなり、サイン同士が干渉して見にくいこともあります。 あたりを見ただけでも居場所の見当がつけば、わかりやすさの手助けになります。 それには、イメージが役に立ちます。 そのために、コンコース、連絡通路、階段、プラットホームの各空間の違いをはっきりさせ、また、初めと終わり、左右の違いなどを表現しました。 ホームの両端の柱を変えたり、ふたつのコリドーの腰壁を分けるなど、いわば「建築化サイン」という考え方を実行しました。 例えば待ち合わせや指定のとき、ホームの金色の方に、とか、透けた天井のコンコースで、というように、明瞭な空間のイメージが、駅のわかりやすさを助けます。
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6− 都市のインフラを、できるだけ目に見えるようにしようと考えました。 地下鉄は巨大な架構ですが、駅はそのほんの一部です。 大部分は地下のトンネルで、目に触れることはありません。 わずかに見えるその駅の、すべてを隠してしまうのではなく、可能なところはそのまま現そうとしました。隠すのではなく、公開すること。 ふだんは見せないところを見せるのですから、設備や構造上のくふうも種々行いました。 利用する方々が、毎日の通りすがりに、都市の見えない構造の一端をさりげなく感じてもらえるような、そんな駅にしようと思いました。 ただ技術の成果を誇るのではなく、かといってすべて隠してしまうのでもなく、そこにあるものを見えるようにすることは、「都市の情報開示」として必要なことと考えました。 その結果として、地下鉄はこうしてできている、というしくみが見えるようになれば、利用者の方々に、地下鉄の価値や困難な点を理解していただくためにも、役立つことと思われます。 7− 土木と建築の、コラボレーション(協調)を求めました。 しかし、ただ仕上げをしないでそのまま見せるだけでは、気持ちのよい空間とはなりません。空調、配管や防水等、さまざまな調整と配慮が必要です。 「何もしていないように見える空間」、を実現するためには、実は、たくさんのことを 「する」必要があります。 特に、ホームやコリドー(ホーム通路)は、三本の円形シールドを組み合わせた新しい技術でつくられているので、その架構をできるだけ示そうとくふうしました。 こうした過程では、土木構造体をただそのまま使うのではなく、建築空間上から土木構造の変更も行われました。それは土木と建築の、これまでにない協力関係を求めるものです。 つまり、土木と建築の、一方通行ではない、相互フイードバックにより駅空間をつくっていくもので、両者のコラボレーションの実現です。 いちばん初めに記したように、今回は、かならずしも十分な共同作業はできませんでしたが、こうした試み自体、新しいもので、これは将来の協調への第一歩と言えるでしょう。 いままで分離していた感のある、シビルエンンジニアリングとアーキテクチュアの、こうした協力関係がさらに進めば、今後、橋やトンネル、道路といった都市インフラも、よりよいものにすることができると思われます。 8− 限られたコストの中で、最大の効果を得るように、めりはりのある空間にしました。 地下鉄の建設には大きな費用がかります。 そのほんどは、全長約30KMの地下路線、つまりトンネルや機械設備等の建設費で、土木や設備以外の駅の建築工事費は、全体の数%です。 駅の建築工事費は全体の割合としては少ないのですが、それでもコストの削減は大切です。 大江戸線の駅の、単位面積あたりの工事費(単価)はもともと低いのですが、さらに、最初の放射部、次の環状部の初期、そして後期の駅と、順を追って減額され、結果として飯田橋駅は、他駅と比べても低い単価となっています。 その低い工費で、床壁天井にまんべんなく費用を配分をしていると、単に、ひととおり仕上げをした、というだけの、貧しい空間となりかねません。 そこで、限られた工費を、メリハリをつけて配分することにしました。 つまり、空間の効果に大切なところに重点的に費用を配分し、コストダウンができるところは徹底して行うくふうをしました。 たとえば、いままでにない、構造体そのままの仕上げは、その一環です。防水のために仕上げが必要なところ以外は、仕上げをせずに構造体を見せることにしました。 またこれは同時に、「構造を見えるようにする」全体のコンセプトのためでもあります。 そして、アルミスパンドレルなどの仕上げと打ち放しを対比的に使うことで、両者とも引き立てあう、という相乗効果を生んでいます。つまり、安い素材も、そうでない素材と組み合わせることで、単独のときよりその持ち味が発揮される、という主旨です。 逆に言えば、すべてを安価な素材や組み立てでつくってしまうと、ただチープなだけになってしまう、ということです。また、地下空間でコンクリートの直仕上げだけで囲まれていると、殺伐とした雰囲気になる恐れがあります。 やはり、組み合わせが必要なのです。 そのように、定められた工費の中で、最大限の効果を発揮すること、それをこの駅での方針としました。 この駅がもし、工費が多くかかっているように「見える」とすれば、それはこうしたくふうがうまくいったということかもしれません。 実際には、他の駅に比べても、同じか、それ以下のコストで、つくられているのですから。 9− 標準仕様や規定を、見直しました。 地下鉄には、前に記した空間の規定から始まって、照明のランプから吸殻入れのかたちにいたるまで、たくさんの決まりと標準仕様があります。 いくつもの駅を標準設計で同じようにつくるときは、そうしたマニュアルが役に立ちます。マニュアルに従えば、あれこれ考える必要はありませんし、標準仕様をコピーして使えば、いちいち設計する時間とエネルギーが省けます。 しかし標準や規定には、繰り返し使っているうちに、なぜそれが良いのか、もう分からなくなってしまったものもあります。 そうした規定や仕様をできるかぎり、ひとつひとつ見直しました。 そのためには、多くのエネルギーと時間を要します。 もちろん、安全性やバリアフリー化のために必要な規定は、きちんと守っています。 そうして、空間全体から、ベンチ、ゴミ箱、壁の角のかたちまで、何が大事かをもういちど考えて設計しました。そうした地道な見なおしと改良を、数多く行っています。 10− 新しい設計方法、「誘導都市」を実施しました。 流れるようにしなやかな空間をつくるために、コンピュータプログラムで空間を自動発生させる、世界初の試みを実施することにしました。 ウエブフレームにその成果を見ることができますし、換気塔もその考え方にもとづいています。 これはいままでの設計方法を変える、あたらしい可能性を持っています。 |
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各部の説明
コンコース
少しでも高い天井に: コンコースは駅の両端の2箇所にあります。 どちらも土木的な制約で階高が低く、そのままでは圧迫感があります。 そこで、一方ではダクトのルートを調整し、一部を切り上げて高い天井をつくり、他方は仕上げをステンレスメッシュにして、低い天井を軽やかに見せるくふうをしています。 ふたつのコンコースの天井仕上げを変えることで、待ち合わせの時などに、どちらにいるのかわかりやすくする、という効果もあります。 奥行き感のある素材: メリハリの利いた構成にする、できるだけ構造体をみせる、という趣旨のもと、壁の材料には波型のアルミスパンドレルを多く使っています。 波型にすることで、奥行きや陰影が生まれます。 横に流れる波は、視線を水平に誘導し、天井の低い空間の圧迫感を少なくする効果も考慮しています。 コンクリートの壁の角は、丸みをもたせるか、曲面のガードを取り付けるかして、安全性を高めています。 照明は光のネットワーク: 照明はランニングコスト削減のために直接照明が主体ですが、直接照明はランプが目に見える、という点をむしろ生かし、ランプを光のラインとして積極的に見せています。 天井に交差するいくつもの光のラインは、行き交う人々のダイナミズムや地下鉄のネットワークとしての性格も思わせます。 コンコースに限らず、階段もホームも、ランプの数は、規定の明るさ(照度)になるように計算して、多すぎず、また少なすぎないように、決められています。 |
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楽しさも、ユニバーサルに: 各駅には民間スポンサーによるアートワークが設置されています。 飯田橋駅の後楽園側コンコースのアートワークは、目の見えない方も健常者の方も、隔てなく誰にでも楽しんでいただける、「ユニバーサルデザインの考え方」でつくられています。 これは、目で見て、そして手で触れて感じられる新しいアートで、触感をテーマに、デジタル記号である点字を使って、触覚と視覚の違いと重なりを楽しむことを意図しています。 バリアフリーの仕様は、各駅共通の基準によっています。 入り口の階段は他のビルの一部を借りているため幅が狭く、エスカレータが入らないところもありますが、一基のエレベータは地上からホームまで通じています。 そうした機能面だけでなく、楽しさもユニバーサルにできないかと考えて、このアートをつくりました。
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エスカレータとエレベータ: エスカレータやエレベータの設置台数や位置は、設計の開始時にすでに決められていて、設計の範囲外とされました。意見や要望は出したのですが、反映されませんでした。 飯田橋駅は既存の路線の下をくぐるため、どうしても深くなります。またコンコースが両端になるため、歩行距離も長くなります。 4箇所の出入り口と接続口のすべてに、上り下りのエスカレータとエレベータを設けるのが望ましいのですが、それには土木構造の大幅な変更が必要です。 また地上の出入り口は地下鉄独自のものではなく、他の建物の一部を借りるかたちでつくります。その建物が小さいと、階段と上り下りのエスカレータの全部は入らなくなります。 こうした点は、設計者にはすでに決まった条件として与えられていて、それを変更することは、今回は不可能でした。 今後の駅の設計に際しては、土木設計の基本的な時点から、建築の設計者が参画して、いっしょにくふうができると、よりよい解決案が得られる可能性があります。
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コリドー(ホーム通路) ここも高い天井に: 階段からプラットホームに至るまでには、長い通路があります。 そのままでは天井の低い単調な通路になってしまいますが、空調のルートや配管等をくふうして、天井の高い架構を生かした空間としました。 照明は壁のスリットに設けて、光のラインが、通路のゆるやかなカーブを際立たせるように配慮しました。 窓から漏れる光のような照明で、戸外にいるような、開放感のある印象が得られています。 設備の配管を収納する腰壁は、上広がりに張ることで、狭い空間に広がりを感じられるようなくふうをしています。 わかりやすく: 連絡通路はホーム両端の2箇所にありますが、その2箇所で腰壁の素材を変えています。 これも、いまどこにいるのかを、建築的によりわかりやすくする、という全体の設計趣旨に沿うものです。 また一方の腰壁に走る半透明なラインは、ホームのガラスの柱に用いたのと同じしくみで、空間に適度な彩りを与えると同時に、地下鉄の方向性や、ウエブフレームの緑のネットワークと呼応しています。 セグメントの一端を: プラットホームに続くジョイント部には、ステンレスの三角形が取り付けられています。 これは、この先のホームの天井構造体である、シールド工法のセグメント(ユニット)をあらわしています。この奥には鋼鉄のセグメントが連なっているのです。 その片鱗を示すことで、地下構造体の一端を感じてほしい、という、構造体を見せるという全体趣旨の一環です。 |
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階段/ウエブフレーム
緑のウエブフレーム: コンコースから続く階段には、ウエブフレームが設けられています。 飯田橋駅は既存の地下鉄が集まる駅なので、あとからつくる駅の宿命として、どうしても地下深くになり、長い階段が必要になります。そこで、日々通るその階段を、単調でない、楽しい空間にすることはできないか、と考えました。 階段でも、「できるだけ天井や壁を張らずに構造空間をそのまま見せる」、という基本趣旨は共通です。 天井や壁の構造体の外側が地中の場合は、水の進入対策のために仕上げをしていますが、それ以外の部分は、原則として構造体をそのままあらわしています。 そこに、ウエブフレーム と呼ばれる、網の目状の架構を設けました。 空間のリズム: これは照明であると同時に、仕上げのないところでは天井の役目も果たします。 ウエブフレームは、単調な空間に、メリハリのあるリズムを生みます。 しかも「透けた」架構ですから、メリハリある空間をつくっても、圧迫感が少ないのです。エスカレータに乗っていると、空間がすぼまったり広がったりする、リズミカルな効果をより感じられることでしょう。 ネットワーク: WEBという言葉は、インタネットのホームページの、WWW(ワールド・ワイド・ウエブ=世界を覆う情報ネットワークの網の目)の「ウエブ」と同じ意味です。 ウエブフレームは、都市の地下を物理的に結ぶ交通ネットワークと、都市の情報ネットワークとしての地下鉄、その両方をあらわしています。 自然から学ぶ、新しい設計方法: さらに、ウエブフレームは単純な幾何学ではなく、自由なカタチになっています。 自由なカタチですが、その全体は規則に従って「成長」しています。 ウエブフレームは、新しいコンピュータプログラムから「発生」します。 ウエブフレームは、2種類の規則にしたがって成長します。 ひとつは必ず守る条件です。それは、枝分かれの角度や枝の数、高さや範囲です。 もうひとつは、設計者の意図で、空間の広がりや密度です。これは、必ずしも守らなくていい、あいまいな条件です。 この2種類の条件、絶対に守る条件と、やわらかな条件、それらをクリアすれば、あとの点はプログラムの自由です。地下空間の中を、好きなように成長していきます。 こうして、一見、まったく自由気ままに伸びているように見えながら、実はきちんと規則にしたがっている、ウエブフレームが生まれるのです。 自由と規則、その両立: 自由に見えて、実はシンプルな規則がある、というしくみは、自然の植物の、成長の原理に近いものです。 そしてこのように、「自由さと規則性を両立させた」設計方法は、新しい独自のコンピュータプログラムを用いたもので、10年以上前に開始された「誘導都市」プロジェクトの、初の実施版です。 この、「コンピュータプログラムで発生する建築」、は世界初の実施と思われます。 ふつう、規則に従う、と言うと、きちんと整っている一方で、融通の利かない四角四面、というマイナス面もあります。 他方、自由きまま、というと、無秩序で乱雑、になりがちです。 このように、規則と自由は、両立しがたいように思われてきました。 一見矛盾するようなこのふたつですが、それをもし両立させることができれば、よりよい街や建築をつくることができるかもしれません。 「誘導都市」は、そういう方法を見出すことを目指し、その手段としてコンピュータプログラムを開発しています。 このプロジェクトは将来の設計の先駆けになる可能性があり、国内外の学会等で発表されています。 (2000年では、イタリアのベネチアビエンナーレ、ミュンヘン「ドイツにおける日本年記念」、メキシコの世界遺産都市モレリアの大学、インドのカルカッタの建築学会等で、招待レクチュアが行われています) ライン照明: ウエブフレーム以外の階段の照明も、コンコースと同じ考え方で、光のラインを積極的に生かしています。照明には反射板をくふうして、照度を高めました。 |
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階段の端をはっきりと: 階段の端(ノンスリップ)は真鍮製で、金色のラインが段差を分かりやすくしています。 同時に、ただ目立たせるだけでなく、金色の反射がモノクロームの階段に映える効果も得ています。また出入り口の階段は雨水が入るため、端をステンレスにしていますが、手すり脇に段差表示サインを取りつけてわかりやすくしています。 手すりと欄干/初めと終わりのしるし: 階段の初めの手すりは、朝顔のつるのように、くるくると巻いた腕で支えられています。 これは握ったときにわずかな弾力を与えると同時に、始まりと終わりを示す一種のサインになっています。 これも、駅空間全体にメリハリをつける、という趣旨に沿うものであり、また建築化サインという考えかたの一環です。 同様に、エスカレータとの境のコンクリート腰壁の凸端部には、小さな鼻金物が付いています。 これは、角を安全にすると同時に、階段の始まりをあらわしています。 それはちょうど、橋の欄干の、親柱のようなものです。 その丸みに手で触れて感触を楽しむことで、親しみが持てるようにとも、考えました。 3タイプあるので、化石捜しのように、どこにいるのか発見してみてください。 |
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プラットホーム: すっきり明るく: プラットホームも、コリドーと同じようなくふうをして、低い天井を張らずに、シールド構造体の高い曲面天井を生かしています。 ただ天井を張らないだけでは、空調のダクトやたくさんの配管が露出してしまいます。 そこで、まず線路の上(軌道部)にコンクリート天井をつくり、その上をふたつに分けて排気と給気のダクトとしました。次に、床下のピットを拡大して配管はそこに収容しました。また、土木構造体の断面を調整して,すっきりしたかたちにしました。 空調の吹出し口も新たに設計し、配線ダクトを設置し、そのほかのさまざまなくふうの結果、単純で広がりのある曲面天井がかなえられました。 地下では漏水が課題ですが、梁の下部全面に樋を設け、柱ごとの2本のたて樋で排出しています。 照明はHID光源を使いてメンテナンスの回数を少なくしました。車両のドア位置から直視したときのまぶしさを減らすため、ディフューザをつけています。 ホームに立ったとき、視界の多くを占めるのは天井ですが、その天井面を明るくすることで、計測数値(ルックス)以上の、明るい雰囲気が得られています。 柱は細く: 柱の大部分はコンクリート状の処理で、周囲の空間との一体感を高め、同時にコスト軽減を図っています。 地下鉄の柱は構造上どうしても太くなりますが、この仕上げにより、柱巻きをなくすことで柱を細くできるため、ホームの有効範囲をより広くとることができました。 柱巻きをなくしたため部分的に外に出てくる、樋や電気配管や電気のボックスには、周囲のデザインと調和するようなカバーや安全ガードを取り付けています。 ウエルカムゲート: その上で、ホーム両端の数本の柱は、仕上げを変えて,出迎えのゲートのような感じを持たせています。 一方の素材は石、他方はガラスです。 石はやわらかな肌色で、やさしく出迎える雰囲気を出そうとしました。 ガラスの柱には、内側で光を反射するくふうをして、電気を使わずに光の効果を得られるようにしました。流れるような光のラインは、行き交う車両の動きや、躍動する自然をあらわしています。その黄緑色は、ウエブフレームの色とも呼応しています。 ガラスは合わせガラスとし、安全性を高めています。 石は、柱に合わせて丸く張ると高価になりますが、タイル状にすることでコストを下げ、また同時に、折れ面の反射のきらきらする効果を得ています。 また、ホームの右端と左端で柱の仕上げが違うことは、ここを使う方々が方向を間違えないための目印にもなるでしょう。 建築化サイン: このように、「空間や仕上げそのものに間接的なサイン性を持たせる」、という処理は、 他の場所にも用いられています。 ホームの向かい側の壁(対向壁)の色を変えて、内回りと外回りがすぐ分かるようにしたのもそのひとつです。 直接のサインで方向や向きを伝えることは必要ですが、むやみにサインを増やすと乱雑な印象を与えかねません。また、サインが互いに干渉して、結局わからなくなることもあります。日本の駅のサインが多すぎて乱雑、という点は、しばしば指摘されることです。 そうした状態を少しでも避けるために、このような建築的な処理が役に立つと考えました。 |
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見えるし見えない、放送室: ホーム中央には放送室があります。放送室は中から一部ホームを見ることが必要ですが、 ホームから中があまり見えるのも問題とされます。 この、「見えるし、見えない」、という矛盾した要求をかなえるために、ハニカムコア(蜂の巣状のアルミ材)をガラスに封じ込めた材料を使いました。正面から見れば素通しですが、少し横からは中は見えません。 このハニカムガラスのパッケージは、ホームの真中のきらきら輝く目印にもなっています。 |
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建築の素材に座る、ファニチュア: ファニチュアでは、建築で用いている代表的な材料の、素材の特性を生かしたかたちにすることを考えました。 ホームのベンチは、二つのタイプをつくりました。 ひとつはH鋼、もうひとつは厚いアルミの板でできています。 どちらも素材になるべく手を加えない、という趣旨です。 H鋼は駅の構造の基本部材です。それをそのまま持ってきて、背もたれをつけました。 アルミは仕上げの基本素材ですが、それに穴をあけて、厚さを感じられるようにしています。どちらも角は安全性のために丸みを持たせています。 また、座の、ひとりあたりの寸法をいままでより広めにとって、隣同士で肩をすくめて座らなくてもよいようにしました。これもちいさなくふうですが、従来の基準の見なおしのひとつです。 電話台は、アルミと並ぶもうひとつの主な素材、ステンレスの厚い板を曲げて、やはりその素材の厚さが感じられるようにしています。 ゴミ入れや消火栓のボックスは、柔らかいカーブで包み込み、安全性と耐久性を高めました。 階段の吸殻入れは、それぞれ違うデザインで、穏やかで楽しいものにしています。 |
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換気塔/ウイング 魅力的な都市施設に: 換気搭はふつうあまり歓迎されない施設ですが、地下鉄駅の空気をきれいに保つために必要な、大切な施設です。 そうした施設を、むしろ魅力的な都市施設にするにはどうしたらいいかと考えました。 換気塔は下部から空気を取りこみ、上部で排気します。上の方には大きな空調機がいくつも載っているため、床が大きく張り出しています。全体の大きさと配置は、この大型の空調機器類の配置や給排気量、道路への影響を避ける位置、出入り口の屋根との関係、それに法的規制から決定されています。 騒音を発する機械の塊や、拒絶的な筒ではない、軽やかでダイナミックなイメージは、パブリックアートとしての性格も持っています。 上部のウイングは、騒音の低減や機器類への通風換気、背後のビルへの採光等を総合的に調整し、範囲と素材を決めています。 ガラス面には自浄性の処理を施し、メンテナンスの負担を軽くしています。 植物のしくみから: 幹となる鉄骨は、単純な直線ではなく、生物の骨格のように束ねられたりわかれたりして、荷重に対応しています。 羽のようなウイングの鋼材も、滑らかな曲面を描き、融合して力を流しています。 ふつうの建築では、鋼材は決まった断面の工業製品を使います。かたちが曲面でも、限られた数種の鋼材で組み立てます。 しかしこの換気塔では、鋼材は場所によって(ということは必要に応じて)太くなったり細くなったりして、臨機応変に変化しています。 ちからのかかるところは太く、そうでもないところは細く、というように、合理的に材料を配分する仕組みです。これは、植物の葉や枝、動物の骨格にも見られるしくみです。 こうした生物のような構成は、「地下鉄の構造(骨組み)を見えるようにする」という、駅全体の設計趣旨とも関係しています。 これは、自然のカタチをまねしたのでは、ありません。 カタチではなく、「考え方」を自然から学んだものです。 カタチは、生物のしくみを学ぶ、その過程からでてきたもので、植物のアナロジーではないのです。 発生のしくみに関連がある結果、できあがるかたちに似たところが生じてくるのです。 「地下に伸びる植物のような、都市のインフラとしての地下鉄」、という解釈から、この駅には「自由に成長しながら環境と調和している自然の生態系から学んだ、設計方法とデザイン」が用いられていますが、換気搭もその一環となっています。 ウエブフレームが地下に伸びる根や枝にたとえられるとしたら、換気塔は地上にあらわれた幹や葉にあたる、と言えるかもしれません。 さらに進んだプログラム: ここでは、ウエブフレームのプログラムをさらに進めて、構造力学と「誘導都市」コンピュータプログラムの融合を目指しています。 このプログラムは、ウエブフレームのプログラムより以上に難しく、今回は完成しませんでした。 したがって換気塔は、そのプログラムが完成した場合はこうなる、というモデルとして設計されています。 プログラムは未完ですが、換気塔自体は、数々の技術開発を経て、完成しています。 また、プログラムではありませんが、換気塔の設計から製作まで、一貫してすべてCADとCGが使われ、検討用の模型も、データから自動製作できる光造形モデルを使っています。
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トイレ: 楽しい鏡: 2箇所あるトイレは、対照的な素材でできています。 清潔でメンテナンス性の良いことを条件に、ひとつは白いタイルで、もうひとつは床壁天井、ブース、小便器とも、オールステンレス製です。 ステンレスのトイレは、鏡もステンレス製で、曇りガラスを手でぬぐったような感じの、楽しいものにしました。鏡をガラスではなく割れないステンレスにすることで、安全性を高め、メンテナンスを容易にしています。 タイルのトイレでは、洗面カウンタを木のようなあたたかい質感の素材でつくっています。 どちらの洗面カウンタも、足元は斜めに後退させて、使いやすくしました。 洗面カウンタの補助手すりも、使いやすく、かつ、きれいなカーブとなるように新たに設計しています。車椅子用トイレの、入り口の開閉ボタンも、分かりやすく、触れて楽しいものを新たに設計しました。 |
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床の仕上げ: グレイ・黒・白/アプローチの変化: コンコースや階段の床は、コンクリートの質感を生かす仕上げを基本としました。 これはコストを低減し、めりはりをつける、という方針に沿うものです。 コリドーの床は、黒い仕上げです。 黒の中に、きらきらとしたちいさな粒子が混じっていて、光を反射します。 出入り口から階段を経てコンコースまで、グレイの床を歩き、黒い回廊を過ぎると、ホームの白いタイルが出迎えます。 この、色彩と明るさの違いが、それそれの空間にめりはりをつけると共に、進むにつれたその変化が、アプローチの気分をつくっています。 :::::利用していくなかで/これからのために: メンテナンスへの配慮: ウエブフレームの清掃には、簡単な清掃用具を用意しました。またウエブフレームの照明は、ランプ交換の利便性のため、高さに制限を設けて配置しています。 外部の換気塔ガラス面には、光触媒による自浄性のコーティングを施して、メンテナンスの負担を減らしています。 さらに清掃担当者に注意事項やポイントを説明して、より効果的な清掃をはかっています。
掲示を、秩序だてて: 今までの駅を歩くと、ポスタや臨時の掲示など、さまざまな張り紙が見られます。 掲示板はありますが、それ以外の場所にもたくさんの掲示があります。必要な案内は大切ですが、それにしても乱雑な印象をまぬかれません。 こうした無秩序な張り紙は日本の駅の特徴で、海外ではあまり見かけないと、しばしば指摘されています。 これではいくらきちんと駅をデザインしても、意味が薄くなります。それに、広告とお知らせが交じり合い、大事な情報を見落とすことにもなります。 こうした状態は、改善した方が、誰にとってもいいことと思えます。 そのためには、掲示にルールが必要です。また禁止するだけでなく、掲示していい場所をあるていど確保することも必要でしょう。 そこで飯田橋駅では、竣工後、駅員さんといっしょに駅を歩き、相談の上、掲示エリアを用意しました。もとの掲示板に比べて、かなり広いスペースを確保しています。 |